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六国峠@ドクター円海山の音楽診療室-無用な営みの、えも言われぬ、この上なき喜び

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管弦楽のための三つの「夜想曲」(ノクチュルヌ)ポール・パレー/デトロイト交響楽団(前編)

 さてよいよ春一番吹き荒れ季節の変わり目な状況、気温もなにか温くなり、寒さに切れもうしなわれし状況。もしや夜の鎌倉の海辺は、おそらく吹きすさぶ風に流れる雲の切れ目に覗く月光が、海面をにぎわせているやも?
 丁度稲村ガ崎~三浦のコースにて天候と月齢に恵まれれば、斯様な状況に出会うときが暫しあり、どうしても円海山的に想起せるのは、今回のお題になる。ドビュッシーの管弦楽曲「三つの夜想曲(ノクチュルヌ)」の「海の精」という次第。

 当曲は装飾的意味でつけられたノクチュルヌというくくりに反して、唯一夜の詩情であり、月光と人魚そして海という具体的表意ありて。前二曲(雲・祭)の同じく管弦楽の独創的創意に加えて二部16人編成を要求する女声合唱が加わり、怪しげなセイレイーンよろしく輝かしくも格調あるターナーの絵画のような色彩で官能的と神秘を繰り広げる。

 さて念頭にあがるのはアンゲルブレシュトのライヴでの直伝の匠な色合いか?アンセルメの明確な表情などの挙げればいとまなき、しかし、もし本日のような春ちかしの荒れ気味の海に移る月になれば?凛として引きしめた中に、律動の官能を具象化せしめたポールパレーの演奏の録音などで興に入りたいことここに告白せるもの。
ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲
パレー(ポール) デトロイト交響楽団 ドビュッシー / ユニバーサルクラシック

さてこの録音にはそれ以外に大いなる付加価値があり、この掻い摘んで明示
当演奏においては海の精冒頭において低音の弦に「ガガガガ」という十六分の四つの刻みがあるが、通常に国外と国内に出回っているスコアの大半には斯様な音は存在しない。(*)

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多くの音盤で聞こえそして大半のスコアにもあるのはハープ(*)の動きであり、明らかに斯様な刻みとして聞こえるものでなく、聞こえるのは紛れもなくチェロ以下のコントラバスにである。

(*)多くの演奏はハープの波動が聞こえるはず

当部分は、後述部分と合わせてパレーの音盤を聞くにつれ非常に不可解な箇所であるところ。
しかし80年代から出回っているドーバーのスコアをみるとその謎は氷解する。
Nocturnes for Orchestra in Full Score (Dover Miniature Scores)
Claude Debussy / Dover Pubns
ISBN : 0486445453


Three Great Orchestral Works in Full Score
Claude Debussy / Dover Pubns
ISBN : 0486244415
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実はパレーの録音セッションにて使用していたスコアは現行ではない別稿のスコアであることが解る次第。

 さて時期を考証すると?版献切れ物では比較的学術的考察を行っているぺーター社(音楽の友社にて国内で出版されている)でのマックスポーマ校訂のスコアに添付せし、現版の元にある1930年版の但し書きに言及ある、旧版の1900年版の譜面である可能性が高いが、これ以後調査を続行する課題でもあり可能性は示唆するも帰結は避けたい。

 この夜想曲は、大半の作品を出版するデュランと契約以前に、ジョベール(旧フロモン)より1900年に原典版の立場の譜面が出版され、作曲家の死後1930年に婦人に残された周辺者とのやり取りでは流布されたであろう、指示やオーケストレーションの変更を反映した第一改訂版が作成され(序文に表記される)、その後誤植や表記を改めた1964年に第二改訂版が出版される。

 おそらく、このドーバー譜面の状況が譜面が少数派なのは?

存在していた原典版よりも恐らくそれの「第一の版権切れ」が他社に版下になり、今日に至ったと想像される次第であり、余り知られないが当曲にも版問題存在していること以外の何者でもない。


なお聴覚上の相違は後半の女性合唱が顕著であり。
現行ではハープと女性合唱とクラリネットの掛け合いになると箇所が
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ドーバーでの旧譜面は?
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女声合唱が一貫して歌われ

パレーの演奏でもそれを踏襲しており、あきらかに該当部分での事例が後者と一致する次第であり。鑑賞の注目すべきポイントとなっている次第。

 さて多くのメティアの評論がドビュツシーの版問題と指揮者の解釈変更と混用する事態が多いようであり、多くの愛好家を惑わしている次第なるは、大いにドビュッシーの譜面の問題がマーラーおよびブルックナーより軽んじらる扱い、ことほか嘆かわしきと所見さるる次第。

 さてパーレーがなぜ旧版の使用に到るかは、パレー研究者に委ね、この件は多少継続報告せり。
by dr-enkaizan | 2006-03-13 01:43 | ドビュッシー@管弦楽
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